2009年2月

平成21年2月24日(火)
第295号「ある土曜日の夜に」

半月ほど前の土曜日の夜、友人たちとごはんを食べた。談論風発のまことに愉快な会だったがメンバーのうち一人は車いすに乗っている社会人だった。

その人は数年前から車いすを使って生活するようになった。車いすを使い始めてびっくりしたのはタクシーが止まってくれないことだったという。

「手を挙げてタクシーに乗るぞ、という意思を示してもだめなんですよ。目を合わせても乗せてもらえないこともあるんです」と彼は言う。
「なぜなんでしょう?」
「車いすをトランクに乗せないといけないし、どうせ障害者割引を使うんだろう、ワンメーターだろうとでも思われているんじゃないですかね」

「じゃどうするんですか」
「ほかのひとに頼んで止めてもらうんです。こうでもしないと止まってもらえないんですよ」

「障害者は割引します」とタクシーの中に書いてあるが、その割引の分は行政が補填しているわけではなく、タクシー会社が割り引いた分を補填してくれるところもあるが運転手と折半になっているところもあるらしい。そういうことも理由になっているのだろうか。

「ただ、逆にタクシーの人にお世話になっているケースも多いんですよ」とその人は言う。

「車いすを使ってタクシーに乗るときは、助手席のドアを開けた後、座席の近くまで車いすで近づいて、それでよいしょっと助手席に体を移すわけです。そこまでは自分でできます。その車いすを折りたたんでタクシーのトランクに入れ、トランクのふたがしまらないのでゴムを使ってそれを固定するという作業は運転手さんが行うことになります。それ自体もなれていない運転手さんだと一仕事なんですが、それが終わって、さあ、出発だということで運転席に座り、アクセルを入れ、・・・とその一連の流れの中でけっこうあるのが『メーターの入れ忘れ』なんですよ」
「そういう場合はどうするんですか」
「『いつもいくらくらいですか』と聞いてそれで払います。でも最近知恵がつきまして」
「なんですか?」
「運転手さんが入れ忘れないように、僕が先に自分でメーターを入れておくんです。そしたらまちがいないですから」

その夜、彼と一緒にタクシーで帰ったときもたしかに「メーター入れておきましたからね」と車いすをトランクに入れて運転席に戻ってきた運転手さんに告げていた。

「こんなこともあるんですよ」。彼は言う。

「コンビニの扉は自動ドアではないので誰かが開けてくれないと入れないのですが、コンビニの前でたむろしてる若者たちがいるじゃないですか。彼らは僕の姿を見つけるとドアを開けてくれることが多いんです」
「ちょっと意外ですね。その逆もあるのですか」
「あえていえば高齢者ですかね。やさしそうに思えますが高齢の方はけっこう僕らにきびしいように思います。ご自分のことで手一杯なのかもしれませんが」
「なぜちがうんでしょうか」
「やはり教育ではないですかね。こういう人たちがいるということをいまの若い人たちは教えられています。こういうことをきちんとあらかじめ教えておくことが大事ということではないかと思います」

彼からは車いすの使い手からみたときの「駅のロータリーにおける車の乗り降り」についての的確なアドバイスもいただいた。ぜひ九州新幹線鹿児島ルート新鳥栖駅で実践してみたい。こういうことをするための負担金増加だったら理解できるのだけどね。


ふるかわ 拝

平成21年2月17日(火)
第294号「感染列島(一部ネタばれ注意!)」

映画「感染列島」を観た。この映画をこれから観るつもりのある人はネタばれがありますので、ご注意あれ。

ということでいきなりなのだが、この時期の「感染列島」だから新型インフルエンザの映画か、と思うけどそれが違う。

何がどう違うのかはさすがに書かないが、新型インフルエンザが発生した場合にも似たようなことがおきるのではないかと思う点もところどころあった。また、こうはならないはずなので、そこはこの映画と新型インフルエンザとを重ね合わせないでほしい、という点もあった。

たとえば映画では、すでに数ヶ月前に新型インフルエンザがフィリピンで発生してそのときは広がらなかったということになっているが、新型インフルエンザをあるひとつの村で封じ込めることによって感染拡大を防止できるとは考えにくい。まったく外界と行き来のない地域など現代の世界には存在していないからだ。もしそういう地域があるなら、逆にどれだけ流行しようが、絶滅しようが誰も気づかないということになる。それがひとつ。

それと、新型インフルエンザが発生したとしたら、そもそもその時点から感染者の協力を得てワクチンの開発がスタートしているはずで、今のスピードだと半年、でも現在開発中の方法だと数ヶ月で開発できる予定だ。だから、映画の中では新型インフルエンザ発生から数ヶ月経っているのにワクチンの準備できていないということになっているようだがそれはありえないのではないかと思う。

ただ、感染が拡大していくイメージや社会機能が止まるということがどういうことなのか、はイメージできたし、医師を演じる妻夫木聡の熱演ぶりと主演女優の檀れいの透き通るような美しさも魅力だった。138分とやや長いが、半分勉強、半分エンタテインメントと思えば楽しめるのではないか。

新型インフルエンザ対策担当の皆さんにはぜひこの映画を観ていただいて、どの部分が現在の対策と違うのか、チェックしてみるというのもおもしろいと思う。たとえば、この感染症発生後みんながどっと病院に押し寄せているけど、あれは発熱コールセンターに電話をすることになっているはず、とかそういうふうに。

ちなみに佐賀県の新型インフルエンザ対策は都道府県の中ではもっとも先進的と言っていいと思っている。たとえば抗インフルエンザ薬のタミフルやリレンザの備蓄量について国の基準はいまのところ国民の23%(まもなく45%に引き上げられる予定)だが、佐賀県は県民の50%分を備蓄することに決め、今回の緊急経済対策の一環として議会に予算案を上程することにしている。また、県庁の勤務体制も国内での新型インフルエンザ発生後は38度以上の熱のある職員は自宅待機してもらうことにしている。

もちろん国にしてもらわなければならないことも多い。たとえば、新型インフルエンザが大流行(パンデミック)したら、外出を極力控えるべきということになるが、運転免許証の更新時期が来た人はどうしたらいいのだろうか。運転免許センターのような人の集まるところに行ったら感染の危険性が高いのだから、大流行時には一時的に期限を延長するという措置が必要になると思うのだ。

ともあれ佐賀県の新型インフルエンザ対策の最新版をここで見ることができるのでどうかごらんあれ。

http://www.pref.saga.lg.jp/web/pandemic-flu.html

ふるかわ 拝

平成21年2月10日(火)
第293号「声がでなくなりまして」

声が「でかく」なりまして、ではない。声が「でなく」なりまして、なのだ。
僕は幼少のみぎりから声が大きい。得したこともあれば損したこともあると思うが、よしあしは別にして僕の声の大きさはひとつのシンボルマークのようなものだったと思う。

ところが、先週の火曜日の夜、そろそろ寝ようかと思って歯を磨いていて声が出なくなった。ぜんぜんでないというのではないけど、かすれていてあまり音が出ないのだ。
「口笛が吹けるようになった」というのと違って声を出すのに工夫とか訓練とかをしたことがないから、どうやったら声が出るのかとんと見当がつかない。

ちょっと湿ったままの下着のシャツを着なくてはいけないときって、最初それを肌につけるときはすごくいやだけど、いざ「えいっ」と着てしまうとしばらくしたら身体になじんでくる。それと同じように今回も何かやっていれば元に戻るかと思って、お湯を飲んだりのどを温めたりしてみたが、ぜんぜん症状は改善しない。湿ったシャツを着るというより、シャツを裏返しに着てしまって、肌に違和感がある感じでどうもシャツをもういちど着なおすしか手はない、そんな状態のように思えた。

こういうときにできることはひとつだった。
とにかく寝た。
けっこう寝ることができた。自分でも「寝たら治る」と思っていたのだな。
「朝起きてみたらおどろくほど声がよく出るようになっていた」ということもあるかも、と思ったのだ。

ところが翌朝もその状態は続いた。ぜんぜんしゃべれないというわけではないが大きな声が出ない。昨晩より少しはよくなっているが、ほうっておいていいという感じでもないのでかかりつけの耳鼻咽喉科で診ていただいた。
主治医の先生の御見立ては、とにかく薬を飲んで一週間くらい様子をみましょう、ということに落ち着いた。もとより異存のあろうはずはない。薬を飲み始めたら症状は緩和されてきていて、だんだん声も大きく出るようになってきた。リカバリー率は50%くらいか。

ただ、声がでなくなっていろんなことに変化が出てきた。
・人生の中ではじめて「すみません。お電話遠いようなんですが」と電話の相手に言われた。
・しゃべるのがけっこう大変なもので、県庁でブリーフィングを受けるときにも、互いに反論をし合いながら進めるというより、主に話を聞いて判断することの方が多くなった。その結果、仕事の回転は速くなった。
・いろんな会議で僕以外に発言する人が増えた気がする。
・気のせいか、僕が「これはおかしいんじゃないか」と(小さな声で)発言しても、「いや、それはですね」と反論する人が増えたような気がする。

いろんなことが回りで起きてて楽しい。

このまま治らなくてもいいようなものだが、元気であることも僕の仕事のひとつだろうと思うし、そろそろ本調子に戻りたい。


ふるかわ 拝

平成21年2月3日(火)
第292号「ハローワークにて」

ハローワークにはいわゆる視察で何度か足を運んだことがある。佐賀県内のハローワークの状況はだいたいイメージがつかめていたが、東京のハローワークの状況も知りたいと思い、東京に行った折に、ハローワーク新宿に行ってみた。

スーパーのワンフロアくらいはあるだろうスペースに120もの端末が並び、そのほとんどが埋まっている。最近では3,000人を超える方が毎日相談に来られるそうだ。相談ブースの数は52あるが、待っている人も59人。1時間以上は待ってもらうことになるという。いきなりの臨場感に圧倒された。

お忙しい中、さまざまなお話を伺うことができたが、いちばん驚いたのはそのハローワーク新宿の向かいのビルに入っている東京キャリアアップハローワークを見せていただいたときのことだった。

そこは非正規雇用専門の支援センターだった。
「そういうものまであるのですか」
「非正規だけのほうが安心して相談できる、という意見が多かったものですから」
「なるほど」
「東京にはネットカフェ難民専門窓口というのもあるんです。これは都がやってるんですけど」
「非正規専門ならではということがありますか?」
「住所を書いてない人が多いです。20人いたら3,4人はそういう人がいますね。書いてないというのでなくても、◎◎プラザ新宿(サウナ店の名前)と書いてくる人もいます。堂々とホテルの名前を書く人もいます。いわゆる普通の家とかアパートに住んでない人たちがけっこうおられます」
「住み込みの求人っていうのはないのですか?」
「けっこうあります。ほらこれをみてください。けっこうあるでしょ」
「でもこれだけ求人があるということは充足していないということですね」
「そうです」
「なぜなんでしょう」
「私たちも最初はそう思ったんです。でもそこが違うんですよ」

なぜだろうか?答えを待った。

「これまで会社の寮に住んでいた人は今回仕事をなくして、同時に住むところまでいっぺんになくしておられるんですよ。だから、もう2度とこういう思いをしたくない、といわれる方が多いんです。仕事がなくなってもせめて住むところはあるようにしたい。そう思って安いアパートを探されるケースがけっこうあるんですよ」
「そうなんですか!?」
「そうなんです。敷金、礼金なしの安いアパートでも見つかって入居できるとそこでやっと『住所』を書くことができ、それで求職の申込書に『住所』を書き込んで求人に応募することができるようになるんです」

「住所、氏名、年齢」と世間では言う。でもその「住所」というものを書くためにこれだけのドラマがあるのだとは知らなかった。

このキャリアアップハローワークでは、一人ひとりにキメ細かく対応することになっている。一人当たりの時間が長いし、みんな周りが非正規雇用なので安心のようだ。

「とにかくいろんな制度を知ってほしいです。解雇手続をはじめいろんな制度を知らないという人が多いです。とにかく早めに相談してほしい。それがいちばんですね。知ってもらえば制度を早くから使っていただけますから」

とはいえ求職に来られるのは実際には仕事をやめてからが多いという。非正規の人はなかなか働きながら次の仕事を探すというのは困難のようだ。

「お仕事はとても大変だと思いますがうれしいときはどんなときですか?」
「次の仕事が決まったときですね。こちらが紹介した人が採用されたか不採用だったかは、会社の方からご連絡をいただくことになっています。採用という通知が来るとすごくうれしいです。たまにはご本人からお礼の手紙が来ることもあります。そんなときはみんなで回し読みします。これで元気が出ます」
「何よりのビタミンですね」
「まれですけど、ご本人がお礼のあいさつに来られることもあるんです。こういうときにこの仕事しててよかったなって思います」
「心配ごとはなんですか?」
「職員の健康ですね。職員が休憩するスペースもなく、昼休みも含めて交代で勤務しています。ここに来られている人はみんな仕事を探しておられる方たちですから、相談も真剣です。だからこちらも気を使います。だからこそときどき休憩しないといけないのですが、実際に来訪者の対応をしていると休みが後回しになってしまうんです。今は土曜日や夜を含めて対応していますから、とにかく職員が倒れないようにすること、インフルエンザにかからないようにすること、こういうことに気をつけるようにと指示しています」

佐賀県もこれから本格的に雇用経済情勢が厳しさを増してくると思う。仕事を見つけるのも大変になってくるだろう。でもこういう気持ちで佐賀県内でも東京でもハローワークの現場の方々もがんばっておられるのかと思うと心から頭が下がる思いがした。


ふるかわ 拝