2009年5月

平成21年5月26日(火)
第308号「裁判員制度のスタートと江藤新平 」

5月21日から裁判員制度がスタートした。数年前まで「素人がやると誤審が増える」と言っていたのがうそのようだが、「市民感覚を裁判に反映させる」という目的自体は悪くないと思う。それにつけても、こうした司法制度をわが国に導入した佐賀藩出身の江藤新平の偉大さをあらためて思う。
裁判員制度導入前夜の5月20日(水)、NHK総合テレビ「歴史秘話ヒストリア」で江藤新平が取り上げられた。江藤は江戸時代に行われていた「お裁き」を、近代国家が法を適用して行う「裁判」にするため、司法省の設置をはじめさまざまな提案を行い、それを実行した。

たとえば罪を犯した人を裁くときも、それまでは弁護士もなく、捕らえてきた側が自白により刑を決め、そのうえで死刑の場合はさらし首となる場合もあった。こういうことが行われていた時代に、「近代国家は人民の権利を守るためにある。その番人の役割を果たすのが司法」と、江藤は近代的な司法制度創設の必要性を訴えた。当時の権力者たちがそういう江藤の思いを十分理解できたかどうかは別にして、近代国家という体裁をつくろうためにある程度の法治国家の色彩は整えなければならないと思っていたからか、彼らは江藤に初代司法卿を命じた。まさか確信的に司法制度を作り上げようとしているとは思っていなかったのだろう。

江藤は司法という「看板」を上げようとしただけでなく、そこで提供する「商品」もそれにふさわしいものにしようとしたのだった。司法制度が動き始めて彼らは驚いた。自分たちにまで追及の手が伸びて来るのだ。彼らはこのままでは大変なことになると考えたに違いない。このため「司法は人民の権利を守るためにある」と標榜してはばからなかった江藤を下野に追い込む。これに対し江藤は「民撰議院設立建白書」を政府に提出。本来、政府とは人民の代表者で構成する議会において立法をなすべきものであるとし、そのために選挙を行うべきと主張した。

そのころ、維新の反動で、各地で政府のさまざまな改革に対する不満が渦巻いていた。佐賀にも不穏の動きがあり、止めに行ったはずの江藤はそれにまきこまれ、首魁ということになり、非公開で、自分の主張を述べる場もろくに与えられず、さらし首となった。江藤自身が否定した前近代的な「お裁き」そのものだった。

しかも、佐賀県そのものも大変な目に遭った。佐賀の役の後、佐賀県は「三潴県(みづまけん)」としていまの柳川や久留米に吸収され、その後、今後は一転して長崎県に吸収された。佐賀県として独立を果たすのはその7年後の明治16年のことだった。
処刑された江藤新平は当然のことながら名誉も失う。彼が名誉を回復し、江藤家に正式にその証明書が交付されたのは、佐賀の役から38年後の1912年(大正元年)のことだ。
佐賀の役よりもっと大々的に政府に反抗した西南戦争を指導した西郷隆盛は、西南戦争の12年後の明治22年に名誉を回復している。
えらい違いではないか。

江藤がスタートさせた明治の近代司法の草創期は、やはり素人が裁判を担当していた。法律の専門家は必要だがそうであっても素人の感覚を失ってはならぬ、と考えていた江藤新平も、きっとこの裁判員制度の発足をにやにやしながら見つめているにちがいない。


ふるかわ 拝

平成21年5月19日(火)
第307号「『なな菜』訪問記」

先日、武雄市山内町にある「なな菜」(ななさい)というレストランに出かけてきた。道の駅山内「黒髪の里」に隣接した景色のいいところにある。この店がスタートするときからいろいろ相談を受けていたので気になる存在だった。お客の入りは悪くないと聞いてはいたが、心配は心配だった。

結果的には心配は無用だった。行ったのが日曜日でちょうどお昼時だったせいか、レストランは満員で席に着くまでに40分近く待った。次々にお客さんが来られていて、順番待ちまでして食べることのあまりない佐賀県においては、とても珍しい光景だった。
僕らが待っている間に、すでに食事を済ませた方たちから声をかけていただいた。「ここのはおいしいですよ」。そんな声が多かった。「健康にいいから」「安いから」というよりも、「おいしいですよ」という声が多かったことにちょっとほっとした。だって、どんな能書きがあっても食事はおいしくないとね。

この店は地元農家が作った野菜を使っていて、化学調味料や添加物を使わない安全・安心な料理をバイキング方式で食べるレストランだ。
食材だけでなく、器は世界的な工業デザイナーにデザインをお願いし、地元の七つの窯元が共同開発した白磁の器。山内町は有田町に隣接していて肥前陶磁器産地の一翼を成す地域なのだ。その器にいろんな物語を載せてほしいという思いで、あえて「白磁」の器にしたという。いわば器がキャンバスといわけだ。メニューもたとえば黒米ちらし寿司、健康煮たまご、さばの香り焼き、チンゲンサイの酢味噌かけ、たけのこの刺身、わらびの煮物、ヤーコンのてんぷら、さつまいものマヨ味噌サラダ、具だくさんの野菜味噌汁。
もちろん季節のものだから、旬の時期にあわせてメニューは変わっている。

たしかにどれもおいしかった。待っただけのことはあった。さらにこのプロジェクトのコーディネータの橋本祐充子さんと話をすることもできた。

このレストラン、建物は当時の山内町がつくり、それを地元の農家やJA、商工会などでつくる協議会が運営している。だから地域のものを活かすこととあわせて、ほかのお店と競合しないことも求められたという。たとえばメニューひとつにしても、ちゃんぽんやかつ丼を出したほうがお客様を集めやすいのは事実。でも、それは地域のほかの食堂が出している。となるとそういうものと競合しないものを出さないといけない。ではほかの食堂が出していないものは何か。それはなんの変哲もない農家の日常料理だったという。こうした料理は逆に当たり前すぎるのか地域の食堂ではメニューになっていなかったのだ。
こうした工夫によって、「地域で普通に食べている料理」を「地域の食材」で「地域の人」が料理をし、お客さんはそれを「地域の器」にそれぞれ好きなだけ取って食べるというこのレストランのスタイルが生まれた。
地域との共存共栄を図るため、米や野菜が地元産というのはもちろんのこと、魚も肉も地元に何軒かある魚屋さんに順番にお願いするという形をとっているし、夜の営業はやっていない。夜の営業をしないのとあわせてアルコール類を出していないしもちろん禁煙だ。
「アルコールを出さないことも禁煙にすることも最初は厳しい反応がありました。でも営業がお昼だけということは身体がいちばん敏感な時間帯だけで勝負するということなんですね。その時間帯を煙草やアルコールで味に鈍感になってほしくないんです」。

数分ごとに新しい皿が運び込まれ、それを待ちかねていたかのようにそれぞれのテーブルからお客さんが集まってくる。
スタッフの方の動きはきびきびとしていて、しかも料理の説明はていねいだ。
「接客と料理の内容とあわせて1200円なんです。どちらが欠けてもいけません。このことをいつも強く言っています。それと料理はプロのシェフではなく地元の女性の方につくっていただいています。地域の味を出すにはむしろそっちのほうがいいのではないかと思いましたし、地元の雇用にもつながります。なにより彼女たちの熟練した技術や知識を地域づくりに活かしてもらいたい、そう思ったんです」
「レシピは?」
「実は地域の献立というのは家々によって味つけが違います。だからといって、作るひとによって味が違うというわけにはいきませんから、レシピは統一しています。でも作るのは地域の女性たちです。主婦がシェフなんです」

「主婦がシェフ」。料理もお話もまことに心地よかった。
「知事、佐賀県にはいいものがほんとにたくさんあります。底力をカタチにできますよ、これからも」
力強い言葉をいただいてお店を後にした。もう1時半近かったがそれでもまだ待っている人はとぎれていなかった。

ふるかわ 拝

平成21年5月12日(火)
第306号「『レッドクリフPartU』を観に行って」

ちょっと前になるが、雑誌「日経WOMAN」が2007年8月号で「人生を変える、最高の本122冊」特集をしたことがあった。そのとき、読者が選ぶ「自分史上最高のバイブル本」ランキングで1位になったのは「赤毛のアン」だった。この雑誌の読者だからビジネスの第一線で働いている女性がメインなのだろうが、平均年齢31歳、837人のアンケート結果らしい。この「赤毛のアン」にはなるほどと思ったのだった。
ところが、驚いたのは2位だ。大人の童話「星の王子さま」でもなく、この年代の女性がたいがい読んだことのある「ノルウェイの森」でもなく、はたまたビジネス書の「七つの習慣」でもなく、2位は「竜馬がゆく」だったのだ。そう、司馬遼太郎描くところの幕末小説だ。ちなみに「星の王子さま」「ノルウェイの森」「七つの習慣」は同数で3位だった。
好きな作家にも7位に司馬遼太郎がランクイン。いま「歴女」(歴史が好きな女性)ブームだというが、引っ張っていっているのはこの年代なのかなあ。

歴史好きの女性がカタマリとして出てきたというのはとてもうれしい。
先日、映画「レッドクリフPartU」を観に行ったときも、いつもは映画館に足をのばすことが少ない中高年男性層がけっこう多かったが、それとは明らかに異なる女性層も来ていて、雰囲気からすると「金城武めあて」と「実は三国志ファン」の二つの流れがあったように思う。

三国志ファンだという女性に聞いてみたら「いきつけの喫茶店に横山光輝の漫画の三国志が置いてあって」とか、「お兄ちゃんがやっていた三国志のゲームに自分もはまって」という答えが返ってきた。
僕も大の三国志ファンだが、最初に接したのは小学校の図書館で借りた「奥野信太郎編 中国文学名作全集」という本だった。それから羅貫中の三国志演義や吉川三国志や岩波書店の三国志を読みふけった。その後テレビで人形劇版も観たけれど、漫画版ともゲーム版とも無縁だったから、「漫画で」とか「ゲームで」などこういう入り方をする若い人たちが実際にいるんだなとあらためて思った。

そういえば、日本語を話せる知り合いのアメリカ人が言うには彼女が日本語を学ぶきっかけは「ポケモン」だったという。そのことを別の、やはり日本語の堪能な中国人に話したら「ははは、ポケモンですか。こどもみたいですね」と笑う。「あなたは?」と聞いたら「僕はドラゴンボールですから」と胸を張られた。


ふるかわ 拝

平成21年5月7日(木)
第305号「あわてない 集まらない がんばらない」

長い連休が明けた。
佐賀県ではその間も担当部局を中心に県庁あげて新型インフルエンザ対策に取り組んだ。
今回は、ついいましがた僕が全職員向けに送ったメールを紹介したい。

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新型インフルエンザの感染者が世界で広がっています。
まだ国内での感染例はありませんが、日本や佐賀県だけが世界的な感染拡大の例外となるとは考えにくく、いつかは来るということだと思います。
ここで私たちは、まず、佐賀県の新型インフルエンザ対策の3つのキーワード「あわてない 集まらない がんばらない」を思い出しましょう。そしてそのように行動しましょう。また、仕事のうえで関係する分野の方々や家族や近所の人たちにもこのキーワードを伝えましょう。

これまでも何度か申し上げてきていますが、佐賀県は我が国の中でももっとも先導的にこの課題に取り組んできました。
たとえば24時間対応の県内どこからでも(携帯電話からも)無料でかけることのできる統一番号の「発熱コールセンター」の設置。これは佐賀県だけです。
また、三つのキーワードや2週間分の食料備蓄の具体的な内容、さらにはその材料を使った料理まで県民にお示ししていること、そして発熱外来だけでなく、新型インフルエンザの患者さんに薬を処方する「発熱対応薬局」を指定することにしていることなど、佐賀県だけしか行ってきていない備えがいろいろあります。

薬についても、現時点では30万人分、つまり人口の34%分が備蓄されていますが、これは国備蓄分の佐賀県への割り当て分です。これから県の備蓄分を増やしていくことになります。全国的には県備蓄分と国備蓄分合わせて人口の45%分を備蓄することになっていますが、佐賀県はそれに5ポイント上乗せして人口の50%分まで備蓄の積み増しをすることを決めていて、予算も確保しています。
いま製薬会社と最終の詰めを行っているところですが、こういう状態の中にあっても佐賀県には予定通り納品することを確認してもらっています。「都道府県の分は、早くから申し込んでいただいていた佐賀県の分を一番に納めさせていただきます」というお話をいただいています。これもこれまで相当熱心に取組みをしてきたことが認められたものだと思っています。だからあわてなくて大丈夫です。
こういう中、いまも担当部局を中心に、県庁を挙げてあらかじめ策定された行動計画に沿ったかたちで対応してきています。危機管理センターにはあらゆる部署から応援に入っていただいていて力強い限りです。

現時点では政府や多くの自治体はあらかじめ策定された行動計画に沿って対応する、ということを明らかにしています。
ただ、佐賀県はあらかじめ策定された行動計画は強毒性のものであって、今回の新型インフルエンザの現状が弱毒性のものの可能性が高いことを考えると、そのまま実行するのは問題があるとして、行動計画の対応内容を修正しました。

たとえば、学校については疑いを含む患者が出た場合、県内の全学校を一斉休校してもらうのではなく、その学校についてだけ10日間の閉鎖を要請する、としました。
このように、具体的にどこの範囲までどういう期間どういう内容の措置を講じるのかを決めている自治体はほかにはないと思います。
政府でさえただ「弾力的に」と言っているにすぎません。
また、不特定多数の人が集まる民間の集客施設などに営業自粛をお願いするとしていた部分も、営業自粛ではなくその手前の注意喚起と感染予防措置の実施の要請にしました。

政府の方針はいまだに国内発生の場合は営業自粛ということになっているようですが、これを本当に実施した場合、相当の影響が出てきます。強毒性のものであればいわば命と引き換えになりますから経済行為に対する制限が課せられる必要があると思いますが、今回の現状を見れば営業自粛は厳しすぎると思います。
相手がウィルスですから、いつなんどきもっと毒性の強いものに変化するかもしれません。そのときにはもともとの行動計画どおりの措置を行っていくことが必要になりますが、現時点ではそこまで行う必要はないのではないかと考えています。

これだけ言っておいてなんですが、新型インフルエンザ問題、これはまだ始まったばかりです。
職員の皆さんも交代で対応してもらっていると思いますが、くれぐれも特定の人ばかりに負担がかかってないか目を配っておいてください。どうしても長期戦にならざるをえませんから。
いま疲れてしまうと、倦んでしまうと、さあ、これから、という時に機動力が発揮できません。いまは「がんばらない」ことです。
緊張感を持ちながらも、必要以上に力まずにやっていきましょう。

業務継続計画の策定はもう終わりましたか?県庁・現地機関に来られる方への消毒用キットは準備されていますか?職員の検温はいつからはじめていきますか?
そういうことをひとつひとつやっていきましょう。また、「集まらない」ことの実践も今回やってみたらいいのではないでしょうか。

そう思ってみれば「あわてない 集まらない がんばらない」
なかなか味わい深いと思われませんか?

いずれにしても、みんなで力を合わせてこの問題を乗り越えましょう。大丈夫ですから。

ふるかわ 拝