2014年8月

平成26年8月26日(火)
第578号「アイス・バケット・チャレンジの前から佐賀県がやってきたこと」

ALS患者支援のための「アイス・バケット・チャレンジ」が広がりを見せている。
ALSとは筋萎縮性側索硬化症という難病。この難病についての理解を広げ、寄付を集めようと始まったのがアイス・バケット・チャレンジ。
先にチャレンジした人から指名を受けたら、24時間以内に、100ドルALS協会に寄付をするか、氷水を頭からかぶるか、あるいはその両方を行わなければならない。そして次にこれを行う人を2人から3人指名するというものだ。もちろん、これは強制ではなく、どちらも行わないという選択肢もある。
Facebookや新聞などでも取り上げられている。
我が国ではトヨタ自動車の豊田社長やソフトバンクの孫社長、海外ではイタリアの首相なども参加、もちろん寄付もされたのだろうが、氷水をかぶっておられた。

ALSは、わが国のには約9,000人、佐賀県内には約60人の患者さんがおられる。
僕がこの病気のことを知ったのは2009年のことだ。佐賀県内にお住まいの一人のALS患者さん(Aさん)からの一通のメールが僕のところに届いた。
それまでは重症ALS患者が、家族の負担を軽くするための短期入院をした場合、その世話をしてもらうために介護保険のヘルパーを派遣してほしいと思っても、それはできない、というのが厚生労働省の方針だった。要するに短期であっても介護と医療は別物、介護保険は病院の敷居をまたがない、という考え方からだった。
重症のALS患者さんであるAさんは日ごろは家族やヘルパーさんに介護をお願いされているのだが、深夜、たんの吸引のため介護している人が3〜4回起きなければいけない。そこでAさんは介護家族を支えるために病院への短期入院、いわゆる「レスパイトケア」を利用した。ところが介護保険は病院の敷居をまたがず、というルールがある。病院の中だとすべて医療の世界でやらなければならない。介護保険の適用がないのだ。なのでAさんのことをよく知っておられるヘルパーさんには来てもらえない。ところが病院のスタッフはAさんに慣れていない。病院の食事も口からでは無理と判断されてしまった。結局Aさんは病院にいる一週間、栄養は点滴で取らざるをえなかった。

「短期入院中もヘルパーの利用を認めてほしい」。そのときの経験からAさんが僕あてにメールを書かれたのももっともだろう。しかも、Aさんは手でメールは書けない。わずかに動く足の指を使って書いたメールが僕のところに届いたのだった。

これはおかしい、なんとかしよう。そう思って厚生労働省に掛け合うがいい返事はいただけない。
そこで最後の手に出た。「全国的な制度、ということになればいろんな検討が必要でしょうが、佐賀県だけ認めていただけないか。構造改革特区として。」と提案してみたのだ。
結果はうまく行った。数か月後、厚生労働省からこういう回答が来た。「この件については、佐賀県だけ、の対応ではなく、提案の趣旨を全国的に制度化します」。

いまもレスパイトを使っておられる人たちは多い。そしてそのときにほとんどの患者さんが日ごろお世話になっているヘルパーさんに病院内であっても口から食事を摂ったり、たんの吸引をしていただいたりしている。
佐賀県からの提案が少しでもALS患者さんたちのために役に立ったと思うととてもうれしい。

大事なことは2009年にこのメールが来たとき、それをそのままにせずこれは問題だと解決に向けて佐賀県として取り組んだ、ということだと思う。僕らはこれからもこうしたことをやっていきたいと思う。
ただ今回のアイス・バケット・チャレンジについては(僕にはまだオファーが来ていないが)、仮に話があれば以下の二つの理由でお断りしたいと思う。

1つ目は公職選挙法上の理由だ。佐賀県内には今回の寄付の受け入れ先である日本ALS協会の佐賀県支部がある。
もし僕が日本ALS協会に寄付をしたら、それは佐賀県内の人に政治家個人として寄付をしたということで公職選挙法199条の2に定める違法な寄付ということになってしまう。さらに言えば、政治家に寄付を求めることも違法だ。なのでまず、寄付はできないのだ。
なぜこんな決まりがあるのかといえば、政治にお金がかからないようにするために、政治家が選挙区内の人、これには個人も法人も含まれるのだが、に寄付することができないことになっているのだ。
2つ目は、寄付ができないのだとしたら、氷水をかぶることの意味は、ALSについての理解促進ということなのだろうが、これについてはもうすでに今回の目的は達成したと言えるのではないか、という理由だ。これだけ話題になっているのだから。

佐賀県には佐賀県難病相談・支援センターがある。そこで対応していただいている難病はこのALSを含め数百疾患(原因不明、病名不明のものも多い)あるが、そのうち、国や県が支援の対象としているものはわずか130にすぎない。
しかも県や市町村が行っている難病対策に対する国の予算措置が十分でなく、例えば、本来であれば5割補助でなければならない医療費助成が実際には3割程度に止まっている。
国でもこのことを問題として、先の国会で「難病の患者に対する医療等に関する法律」を制定して新たな難病支援の枠組を整えたもののまだまだ十分ではない。
また、難病になった方々の生活支援だけでなく、就労の支援というのも大きな課題だ。難病患者はただ難病というだけでは障害者手帳がもらえない。なので企業としても障害者雇用率にカウントができないので、採用や雇用の継続に二の足を踏んでいるところが少なくないのだ。

難病については、こうしたさまざまな問題が存在していることをこれを機会に多くの皆様方に知っていただければと思う。


ふるかわ 拝

平成26年8月19日(火)
第577号「シリコンバレー報告(ぶらぶらぶら 篇)」

シリコンバレーで聞いた話のうち、移動についてこういうサービスが広がってきているのか、というのがあったので二つ紹介したい。

一つ目がブラブラカー(http://www.blablacar.com/)。会員制の相乗りサービスだ。これはヨーロッパで広がっている。
たとえば、8月○日、ロンドンからバーミンガムまで自分の車で行くというとき、同乗者がいてその人が少しコストを負担してくれるのなら、それって悪くないではないか。
ということで、このサイトで相乗り者を募集するのだ。
「乗せてくれ」という会員から手が挙がる。募集している人はその中から「自分と気が合いそうな人」「安心できそうな人」を選ぶ。もちろんお互いにプロフィールを公開していて、しかも評価(rating)もされている。
「気が合うかどうか」は「趣味がどうか」とかで判断することになるのだが、このブラブラカーのサイトの特長は「自分がどれくらい話好きか」を「ブラ」の数で表現するようになっているという点だ。
話好きなら「ブラブラブラ」、ある程度なら「ブラブラ」、あまり話しかけてほしくないのであれば「ブラ」と、いわば自分の話し好き程度に点(ブラ)を付けることになっているのだ。
そして経費は割り勘で。割り勘条件はガソリン代(高速代が存在しないのでガソリン代だけ、ということなのだろう)を人数で割る、ということ。
ブラブラカーはヨーロッパを中心に普及していて、カリフォルニアにも同じようなサービスがある。
このほか、前回紹介したUber以外にも似たようなものとしてカリフォルニアにはLyftやSidecarというサービスもあり、ともかくこのような交通系のサービスがどんどん出て来ている。そして、それはスマホの存在によって加速されて来ている、ということだ。

二つ目はカーシェアリング。カーシェアリングは日本でも普及しつつあるが、Zipcarという新しいカーシェアリングサービスを教えてもらった。これも会員制で、あちこちにZipcar用の駐車場があってそこに車が駐車されている。利用者は車を使いたくなったらアプリで申請して自分にとって便利なZipcarが停めてある駐車場を探す。そして予約の時間になったらその車のところに行き、自分のカードをかざすとドアが開いて車を使うことができる。たとえばスーパーに買い物に行くようなとき、いちいちレンタカーのオフィスに行くのは面倒ではないか。そういうときに30分当たりいくらで借りることのできるこのサービスは便利だという。しかもガソリン代込み。車を持たずに使う、という流れに合ったサービスのようだ。
調べてみたら、日本にも同様のサービスを展開している会社があって、サービスエリアを拡大中だった。

また、今回、グーグルの自動運転の車も見かけた。ふつうの車だがボディにGoogleと書いてあり、屋根の上にはアンテナが立っている。自動運転されているのだ。現時点では用心のために運転席に人間が乗っている。ただ、何か心配そうに外を眺めている、というよりは、「こんな必要ないのに念のため乗ってるだけ」という雰囲気だ。
自動運転車もあと数年で実用化されていくだろうと言う。グーグルの自動運転の考え方は、「車そのものを賢くしていく」というものだ。もちろん車の位置はGPSで管理するわけだが、人間の眼なら1台前と1台後ろしか見えないけれど、グーグルの車にはセンサーやカメラが積んであって、2台前や2台後ろの車の様子を把握できる。2台後ろの車が抜きにかかってきている、ということを知ることができるのだ。
こういう車が本格的に実用化されるようになると、いったい世の中はどうなっていくのだろうか。
日本の自動運転の方向は、「道路にある種の装置をつけて、その装置の誘導に沿った形で車が動く」ということのようだ。それだと、まずは高速道路、次に主要国道、という感じで行政のインフラ整備が進んだところにしか自動運転の恩恵が及ばない。地方に届くにはかなりの年数がかかってしまうのではないか。
グーグルの自動運転の試みは、その方向とは違う。行政がどういうインフラ投資をするか、ということとは関係なく、車に必要なシステムをみんな積み込むということだと思う。
これだと全国どこでも実施できる。
僕はこちらのほうがいいな。

とても長くなっているシリコンバレー報告。次回はやっとAirbnb。


ふるかわ 拝

平成26年8月12日(火)
第576号「シリコンバレー報告(Uber 篇)」

シリコンバレー発というわけではないけれど、今回の滞在中よく使ったサービスがUber(日本語的にはウーバーと発音)とairbnb(日本語ではエアー ビーアンドビー)だった。いずれも新しいサービスの名前。Uberは、アプリで簡単に呼べるクルマ。airbnbは、アプリで予約できる民泊だ。
今回はUberのことをご紹介したい。

Uberというのは、タクシーに代わっていまシリコンバレーをはじめ全米や世界中に広がりつつある移動支援サービスの代表的な名前。英語では一般名称として「transportation networking companies」と言われているらしい。
Uberというアプリをダウンロードして会員登録(名前や支払のためのクレジットカード番号など)しておいて、どこか出かけたいとき(車で連れて行ってもらいたいとき)にそのアプリを開き、「迎えに来てほしい」というボタンをクリックすると、「迎えにくる車の種類と車番、運転者の名前、評価(5点満点)や、あと何分でそこに到着するか」が表示される。なぜ自分のいる場所がわかるかというとGPSを使っているからだ。
Uberの運転者たちはUberという会社に雇用されているのではなく、一人ひとりが自分の車(今回乗った車はほぼ新車みたいな車ばかりだった)を持っていて、Uberの会員から呼ばれるとそこに迎えに行く、という仕組みになっている。要は個人タクシーみたいなものだ。
だいたい数分から10分くらいでUberの車が到着する。お互いに名前を確認し、多くの場合は運転者がドアを開けてくれ、水は飲むかい?と聞いてくる。そして行先の確認。行先は住所を告げ、それを地図アプリに入れてもらってそのアプリの指示に従って行く。車中、雑談をしながら(別にしなくてもいいが)。
到着したら再びドアを開けてくれ、じゃあね、と別れる。それで終わりだ。支払はすでにカードが登録されているので、その運転者との間には発生しない。チップもない(というか含まれている、ということなのだろう)。
その後、登録したアドレスにメールが来る。それが領収書だ。いつ、どこからどこまで乗ったのか、地図付きで出てくる。そして支払の確認をする際に今回のドライバーの評価をする。
これがUberの仕組みだ。

タクシーを呼ぶのに比べると簡単(アプリを開いてここに来て、というところをクリックするだけだから)だし、車は(少なくとも僕らが今回乗った限りでは)きれい、そしてドライバーの名前が分かり、しかも評点まで出てくる(今回のドライバーはみんな4.9とか4.8とか高評価の人ばかりだった。ドライバーに聞いたところによると、この評価が4.6を下回るとUberからはずされるらしい。ドライバーがみんな愛想がよかったのも、そのせいか。)。
運賃、というかお礼というか要するに料金は、使ってみた感じではタクシーに比べて安いと思う。試しに同じ区間でUberとタクシーを1台ずつ使ってみたところ、Uberはサマーセールでディスカウントしてあったこともあり、タクシーの半額以下だった。ただし、混雑時には逆に高くなることもあるようだ。たとえばある夜はたくさんの人たちがUberを呼んでいたらしく、そのときの料金は普通の基本料金の2倍だった。もちろんそれはあらかじめ表示されるから、それが嫌ならタクシーを探すか、安くなる時間帯まで待つ、ということになる。
だが、タクシーに比べて安いから使う、というよりは簡単で安心できるから使う、ということだと思う。

このコラムでも書いているように、僕は今後の地域における移動手段についてとても関心がある。
Uberについては前から知っていたが、今回はじめて使ってみて、ああ、これは広がるはずだ、と思った。出張期間中、僕がまず使ったのだが、当初はタクシーを呼んでいた他の職員たちも、時間もかかるし応対に不安や不満があったりして、結局はUberの会員になって、いろんな場面で活用していた。そもそもシリコンバレーには流しのタクシーをあまり見かけないし、とにもかくにもUberのほうが便利で安心なのだから。
もちろん、いいことばかりではない。当然のことながら各地のタクシー会社との間では訴訟にもなっているし、タクシードライバーによる抗議活動も行われている。そういうことも受け、カリフォルニア州では一定の規制の下にこうしたサービスに「transportation networking companies」という名前をつけて認めることになった。

なお、Uberには幾つかのサービスがあり、僕が利用したのは一般の人が自家用車を使ってサービスを提供する「UberX」。他にハイヤーを比較的安価に手軽に利用できる「UberBLACK」などがある。
日本でも東京では、昨年11月から「UberBLACK」が始まっているし、この8月5日からはアプリでUberと提携しているタクシーを呼ぶ「UberTAXI」という新しいサービスがスタートしているが、一般の人が自家用車を使ってサービスを行う「UberX」はまだだ。法的な整理ができていない、ということだからからもしれない。
なので、ぜひとも米国に行かれるときにこのサービスを試してみて、いろいろ感じていただきたい。念のため申し添えるが、これはUber礼賛ではない。こうした一種の新しいサービスを体験することは価値があることだと僕は思う。

さらに今回の滞在中、これのさらに進化形、というか変化球とも思えるサービスのことも教えてもらった。世の中、ここまで来ているのか、と思う。それはまた次回。あれ、なかなかairbnbにたどり着かないな。


ふるかわ 拝

平成26年8月5日(火)
第575号「シリコンバレー報告(シリコンバレーに興奮 篇)」

7月末から4泊7日でシリコンバレーに行ってきた。
米日カウンシル主催の知事会議だ。
出発する少し前に佐賀空港の自衛隊使用などの話が出て来たので、僕が米国に行って米軍の関係者と会うのではないか、という憶測が一部にあったらしいが、全くそんなことはない(笑)。
その間、何をしていたか、佐賀県庁のサイト「こちら知事室です」にほぼ毎日動画で報告をしているので、ぜひ見ていただきたい。
忙しくはあったが充実した出張だった。
恥ずかしながら、初めてのシリコンバレー訪問だった。でも、数日間そこにいるだけで新しいビジネスや技術が生まれて来るのが分かるように思った。

いろんな人たちに、なぜシリコンバレーで新しいものが生まれるのか尋ねてみたが、一つひとつ何となく理解できるものだった。
月曜日の朝に訪れたフォガティ研究所。これはフォガティカテーテルという風船付きのカテーテルを開発した循環器の医師であるフォガティ先生がNPO組織を作り、起業の支援をしておられる。
そのフォガティ先生は「世界中がここの地域のマネをしている。でもなかなかうまくいかない。それはこの地域のECOSYSTEMというものがユニークだからだ。スタンフォード大学やUCバークレーなどの大学が存在し、ベンチャーキャピタルが多数あり、しかも人々は起業に対して理解がある。」と言われていたし、そこで働く日本人のスタッフも「最後は空気感、でしょうね。インキュベーションスペースのあり方も日本とは違っていて、あまり垣根がありません。ごらんのとおり、隣が何をしているのか、手に届くような感じすらあります。なので、みんなお互いに話をして、ヒントを得たり与えたりしています。でも、知的財産権にからむような、話してはならないことは、もちろん話しません。このへんの空気感、というかバランス感は、ここにいないと分からないものですね」と言っていた。
また、ここに入居している医療器具関係の会社のスタッフ(日本人)は「ここにいると垣根が低い、というかエライ人とかそうでない人とかそういう敷居が低いのを感じます。私たちのところに手術室から医師が直行して来ることも珍しくありません。そして使ってみた器具のことについて報告やアドバイスをくれます。医師だから話しにくい、ということは全くありません。」と言う。

こうした垣根がなく敷居が低く、そして何より人々が平等で新しいものを創り出すことに対して前向きでいることができる雰囲気がある、というのも起業が成功するために必須の要素なのだということだと思う。

また、フォガティ研究所は古い病院の建物を改造して研究所のオフィスやインキュベーションスペース、工房に使っていた。コワーキングスペースのImpact Hubはサンフランシスコクロニクルという新聞社のビルを借りて、新聞社の雰囲気を色濃く残した中でやっていた。Plug and Play Tech Centerというインキュベーションセンターの入っている建物も、もともとは別の企業のオフィスだったものをそのまま使っているなど、ハードにお金をかけてないのだ。日本で何かこの手のことをやろうとすると割とハードに力を入れてしまうが、これは力の入れ先が違う、ということなのだろう。

なぜシリコンバレーなのか。
東海岸にもブランチがあるImpact Hubの責任者に、東海岸と西海岸ではどこがどうちがうのか、聞いてみたところ面白い答えが返ってきた。彼女は東海岸の出身だが、その彼女から見ても「この地域はユニークなのだ。組織的なヒエラルヒーにとらわれない、成功をめざす雰囲気がある」と言う。「そもそもその雰囲気はアメリカという国そのものが持っているのではないか」と聞いてみたが、「多少なりとも確かにそういう面があるが、東海岸は西海岸に比べて保守的で、これほど成功に対してみんながひたむきではない」と言う。

「失敗を悪いものととらえない」というのはこの地域の考え方としてよく言われているが、この地域のある企業はこんなモットーを持っているという。「Fail quickly」。
確かに「早く失敗して、そこから学ぶものを学んで、さらに成功に向けて挑戦する」ということなのだろう。「Failure is the road to success」(失敗は成功への近道)という言葉もあるという。このように失敗に悪いイメージがない地域、というのは簡単には作れないのだろう。

この地域には、この手の言葉が溢れていた。その分、そういうスピリットも溢れているということだろう。
Plag and Playでの、モバイルをテーマにしたプレゼンテーションの会には、佐賀県からスマホ関連のソフトウェア技術を持った企業も参加した。
5分という短い時間(だいたいどこでも5分らしい)でその企業はすばらしいピッチ(プレゼンテーションのことをこう呼ぶらしい)を行った。質問のコーナーになると会場から何人もの手が挙がり、ひっきりなしに質問が続いた。すべての企業のピッチが終わった後はネットワーキングタイムになったが、どの企業にもどっと質問者の輪ができ、何か一緒にできないか、という提案や相談が繰り広げられていた。ああ、こうやって新しいビジネスや製品が出来上がっていくのか、というその瞬間を見たような気がした。

書き出すときりがないくらい今回の出張は得るものが多かった。

なんとヤフーの創始者のジェリー・ヤンにも会うことができた。僕は彼にこういう質問をした。「I'm wondering what you are doing everyday」(いったい毎日何をしておいでなのか知りたいのですが)。司会のダニエル・オキモト氏(スタンフォード大学名誉教授)が茶々を入れた。「彼の奥さんも同じことを思っているよ」(笑)。
ジェリーはいま投資家への支援をしているのだと言う。たとえば、として教えてくれたのが卵の味のする植物の開発、ということだった。
卵の味のする植物!? EGGPLANT(なす)とかと思ったが、それはカタチが卵に似ているだけ。味が卵に似ている植物なのだ、と言う。それが成功すれば卵を取るためだけに鶏を飼う必要がなくなる、マヨネーズも植物性のものだけで作ることができるようになる、そんな話だった。

このほかスティーブ・ジョブズと一緒に長くアップルで仕事をしてきたジェームズ・ヒガ氏のこれからのITの行方についてのお話も刺激的だった。たとえば「Internet of Things」という言葉がこれからキーワードになる、とのこと。
これは、これまでインターネットというのは通信関係のものをつないでいたのだが、これからはモノをつなぐようになる、ということ。車もネットにつながるし、家電もそうなる。そういう「モノのインターネット」がこれから主流になっていく、という意味だった。
この言葉はどこに行っても耳にした。次の時代にはこの言葉が広がっていくのだろう。

僕は土曜日の朝に佐賀に戻ってきた。湿潤な雨が僕を迎えてくれた。
Plag and Playに入居しているある日本企業のスタッフが、こう言ったことを思い出した。
「なぜシリコンバレーなのか。気候だ、という人もいるんですよね。一年中雨がほとんど降りません。人が暮らしていくのにとても適した気候です。冬場どんより、というのもありません。こういう気候のほうがものを前向きに感じられる、ということがあるというのは確かかも、ですね。」
それともう一つ。「日本企業で働いている人が会社からの派遣でこちらに来ている、というのは多いですよ。みなさん優秀で、こちらのものをすぐに吸収されているようです。でも、そういう優秀な方は帰国する飛行機に乗って日付変更線を越えるとそれまでのことを忘れて日本企業の一員として働かれる、という話もよく聞きます。」
僕も日付変更線を越えて帰ってきたが、それでもなお若干の興奮状態にいる。この気持ちをできるだけ忘れずにいたい。幸いなことに、今回は何人もの職員や佐賀県企業の方々ともご一緒した。ときどき、その気持ちを忘れていないか確かめるようにしたい。

ふるかわ 拝